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監督・脚本・音楽・製作:トム・ティクヴァ
撮影:フランク・グリーベ
編集:カーチャ・ドゥリンゲンベルク
美術:シュビレ・ケルバー
出演:ニナ・ペトリ、ペーター・フランケ、ヨーゼフ・ビアビヒラー、ヨアヒム・クロル、カティヤ.シュトゥット
1993年/ドイツ映画/カラー/106分
配給:N.S.W.
世界を震撼させた禁断の映画『パフューム ある人殺しの物語』の鬼才トム・ティクヴァ監督(『ラン・ローラ・ラン』『ウィンタースリーパー』)の原点!幻の長編デビュー作が、今、封印を解かれる!
悪夢のような情景が、マリアの頭の中を駆け巡る。少女の頃の思い出、芽生え、ファースト・キス、欲望、抑圧、罪悪…。そして夫との結婚という「ウソ」。マリアの夢はただひとつ。これまでの暗闇から抜け出し、過去の呪縛から自らを解放すること。もはや彼女を救えるのは奇跡しかないのであろうか…。
魅惑的でありながら異様、まさにカフカ的なシュールな映像の中で、マリアの「孤独」と「妄想」が独特のバランスで絡み合う狂気の物語。常に、愛を描き続けるティクヴァ作品。それも普通とは違う、常に過激な方法で---。シチュエーションは異なっても、主人公はみな絶望的な愛を求めてひた走る!
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STORY
少女から大人へ…私の中のオンナが目を醒ます。
穴蔵のような風通しの悪い部屋で暮らすマリア。夫、そして寝たきりの実父と一緒だ。彼女が身を置く秘密めいた世界は外から完全に遮断されている。その暗闇に入っていけるのは昆虫だけだ。そしてこの昆虫も、マリアの奇妙な性癖の犠牲となる。ある朝、電話が鳴る。向いの住人からだ。二人はすぐにお互いの本質を見抜き、恋に落ちた。そして、マリアはずっと封印していた自分の過去を取り戻そうとするが…。
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ジャン=リュック・ゴダールを始め、岩井俊二やツイ・ハーク、キム・キドクなど、これまで世界の鬼才たちが挑んできた、<聖母マリア>というテーマ。
トム・ティクヴァは早くも長篇デビュー作『マリアの受難』で、この難解なテーマに挑み、後にとんでもないものを産み落とすことになる。それは『ヘヴン』以来、3年ぶりの新作となった『パフューム/ある人殺しの物語』。つまり、本作『マリアの受難』の存在を無視して、『パフューム』を語ることはできないのである。
13年という年月を隔てた、この2作にはいくつかの類似点が挙げられる。まず、「主人公は孤独に生きている」。世に生を受けた瞬間に母親に捨てられた、『パフューム』のグルヌイユはもちろん、実父と同居、さらに夫がいるマリアも孤独の身だ。なぜなら、彼らのあいだに愛情はなく、あるのは服従関係だけ。そんな2人とも、人並みはずれた「特殊能力」を持っている。グルヌイユは、数キロ先の物でもかぎ分けられる超人的な臭覚。一方のマリアも、物体を手に触れずに移動させることができる。そして、グルヌイユはプラム売りの少女と、マリアは向いに住む出版社務めの男と出会う。この「運命的な出会いから、悦びを知る」結果、2人は「殺人という行為に及ぶ」のである。
だが、少女の香りを再現した香水の開発という、明確な殺人動機がグルヌイユに存在する一方、マリアにはそのような動機が見当たらない。つまり、製作当時28歳のティクヴァは彼女の殺人に至る動機を断定せず、その過程のみを描くことに徹した。ここで思い当たるのが、ロマン・ポランスキーの『反撥』の存在だ。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる純粋な少女の精神が崩壊していく過程を追った、モダン・ホラーの傑作。後に『イレイザーヘッド』を始め、『バートン・フィンク』や『インファナル・アフェアU 終極無間』など、古今東西の作品群に多大な影響を与えていったのはご存知のとおり。もちろん、シネフィルのティクヴァだけに、本作では斜めに捉えた地面などの不気味なカット、心臓や時計の秒針といったノイズ音、さらに、今では信じられないほど美少女だったマリアの妄想など、視覚的にも聴覚的にも『反撥』にオマージュを捧げている。
ちなみに、『反撥』に台所のウナギのエピソードが出てきたように、本作ではフォミーモという木製の人形が男性器を象徴した、キーワードとして登場する。幼いマリアが子守りのおばさんから渡され、彼女にとって唯一の友だちとなる、この人形。やがて、現実逃避のための希望の糧となり、さらに彼女自身と変化を遂げる。そして、最後には......。これが偶然にも、『パフューム』でグルヌイユが体感する、「奇跡のクライマックス」へと繋がっていくのである。つまり、このフォミーモの存在は、“瀕死のマリア”に対する啓示であったと同時に、映画監督として“赤子のティクヴァ”に対する啓示でもあったのだ!
くれい響(ライター)
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3月24日(土)より、狂気の レイトショー!
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